2020, May, 10
 
 

発酵が作る、世界一硬い食べ物。

本枯れかつお節って何?

〜かつお節工場見学

「ヤマ十増田商店」〜

 
 
 
 
 

出汁に、おかかに、私の食生活に欠かせない存在。でもその違いについてはよく理解していない。高い商品が美味しいだろうと、お正月用には上のランクの物を買ったりする。そして発酵食品だと、最近知った。これが私の、かつお節と関係、2018。

 

発酵食品への興味が深まる中で、かつお節も発酵と知ったけれど、どうやって作られるのだろう。そして、全てのかつお節が発酵してる訳じゃない、と聞いたけれど、どう言う事なのだろう。

「かつお節と仲良くなる旅」序章

 

そんなある日、我が家からかつお節削り器が見つかった。下に引き出しがついてて、上には削る刃がついてる、たまに朝ドラとかで見るやつ。Facebookで友人達にその写真を見せると、色んな反応が返ってきた。

「あ〜よく母が朝削ってたよ〜。」
「すごーい!持ってたんだね!」
「うちでは今も削ってますよ。」

年上の友人達は、割と記憶の片隅に、削り器の思い出があるらしい。毎日削らされていたとか、母が毎朝とか。やっぱ削りたては最高だとか。その思い出がすごく羨ましく感じた。私は特にそういう思い出はないし、削り器を台所の棚の一番上から発見するまで、触ったことなんて無かった。棒状のかつお節も、勿論触ったことなんてない。

 

この事がきっかけで、せっかくだから買ってみようかな、という気になった。更には、せっかくだからかつお節工場の見学も行ってみようかな、という大きい話になった。

 

こうして私の「かつお節と仲良くなる旅」が始まった。

 

 

 

 

かつお節の産地、焼津へ。

かつお節は枕崎というイメージは何となくあった為、最初は遠出を考えた。それが何と、静岡の焼津に個人でも見学出来る工場を発見した。静岡なら、日帰りでも行けるので、ラッキー!

焼津は以前、かつお節の産地No.1だったとか。実際、街中には資料館もあって、その様子が写真で見られた。今回は焼津の中でも、昔ながらの製法を守っている、ヤマ十増田商店さんを訪ねた。

 

(焼津漁業資料館より。焼津港でかつお節を干す様子。)

 

 

 

 

ヤマ十増田商店を訪ねて。

 

焼津駅から車で5分強。直売所併設の、かつお節工場。今回は友人達に声を掛けて、グループでお邪魔した。(2019年3月20日)

訪れたのは、お昼後。丁度、カツオを煮て、骨などをとる作業を見る事が出来た。解体や燻しの作業は今回見られなかったけれど、とても丁寧に気さくに説明して下さった。もし興味がある方は是非。

ヤマ十さんのかつお節が出来るまでは、以下の通り。

 
 

 

 

工程① 解凍・解体

 

まず、写真のように、冷凍されたカツオを解凍して解体する。1日に1トンの鰹を手作業で処理するのだとか。解体用の机はこちら。包丁の跡なのか、かなり貫禄がある。

 
 
 

 

 

工程② 煮熟
 

解体したものを煮熟(しゃじゅく)と言って、95度ぐらいの熱湯で煮る。魚は生のままだと鮮度が落ちやすいので、この工程で、鰹の身が劣化するのを遅める。

 
 
 

 

 

 

工程③ 骨取り
 

煮た鰹の身をさらに完成形に近い形に分解して、骨を取り除く。作業は水の中で。この工程で出来るものは「なまり節」と呼ばれる。それから、部位・形状によってさらに名前も別れる。鰹の背の部分は「雄節」、腹の部分は「雌節」。サイズが小さな鰹は、背と腹を分けずに加工するので「亀節」(亀の甲羅のような形をしていて、縁起物。)。

 
 

 

 

 

工程④ 手火山焙乾
 

煙で燻して保存性を高める工程。

 
 
 
 

 

 

ヤマ十さんは、明治20年の創業以来、手火山式焙乾一筋で、かつお節を作り続けている。この手火山式焙乾は、江戸時代から燻しの王道。現代では、一般的な作り方では無く、ごく僅かな工房にしか残っていない技なのだとか。

セイロに、なまり節を並べ、蒸しカマドの上に何枚か重ねる。それらを直火で燻して行き、手作業でセイロを入れ替えながら、よく燻して行く。とても手間のかかる方法。けれど、直火での焙乾は燻した香りが特に強くなり、良質のかつお節になると言う。 

 

工程⑤ 急造庫焙乾
 

その後、急造庫と呼ばれる、4階層式の燻し蔵にてまた焙乾を続ける。1階には薪で火を起こす場所があり、熱と煙が中で効率よく回って燻しが進む。

 
 
 

 

何層にも分けられた蔵の中には、鉄製のせいろに並べられたかつお節が、 燻しの具合によって 、階層を変えて配置される。 何度も階層を変えるのだけど、狭くて、手作業なのでこれも重労働。常に燻し続ける訳ではないが、完成には1ヶ月程かかるのだとか。一般的に、水分を26%以下にして仕上げたものが、「荒節」と呼ばれる。

この焙乾・乾燥という作業、ただ燻して乾かせば良いように聞こえるけれど、時には湿気に触れさせるのも大事だと、ヤマ十さんはおっしゃる。実は、先程の煮熟をする場所と、燻しをする場所は、同じ屋内。隣り合わせで、完全に遮られている訳ではない。煮熟した時の蒸気に、焙乾途中のかつお節が触れる。緩めて、締めて。緩めて、締めて。そうする事で、より中まで乾燥して、良いかつお節になるのだと。

燻す事によって、節内の水分が減るだけでなく、薫りを豊かにし、脂質の酸化を防ぐ効果もある。燻煙内にある物質にその働きがあるのだとか。

こうして、出来上がった荒節は、厚削りや花削りとして商品になり私達の元へ。。

 
 
 

あれ?カビ付けはいつなの?と思った方。流石!実は、カビ付けは、さらにこの後の工程なのでございます。

 

工程⑥ 選別・削り
 

荒節の中でも、形状の良い物、適度に脂の乗っている物を見極め、燻しで形成された表面のタールを削る。これで出来るものが「裸節」と呼ばれ、カビ付けに使われる。なぜ適度な脂の節が必要かと言うと、ヤマ十さん曰く、脂が無さ過ぎれば、綺麗にカビがつかず、有り過ぎても粉っぽくなってしまうのだとか。
 

 

 

 

工程⑦ カビ付け

 
 
 

かつお節用のカビを裸節に吹き付け、天日に干してを繰り返して、4~6ヶ月ほどかけて本枯れ節が完成する。一般的に、1番カビ、2番カビを経て出来た物は、「枯れ節」。3番カビ、4番カビを経て出来た物は「本枯れ節」と呼ばれる。本枯れ節は、水分が13~15%ほど。原料時の重さと比べると、1/6ぐらいまでになるのだとか。

商店でかつお節を買い求める時は、荒節から出来たものは「かつお削り節」、カビ付けから出来た物は「かつお枯れぶし削り節」の様に表記されているので、そこで見分けがつく。本枯れ節の表記もある。

 
 
 

 

 

かつお節のカビ

 

荒節の状態でもかつお節として使えるのに、なぜ手間を掛けてカビを付けるのか。それは、保存性をさらに高めるため。江戸時代前半に出回っていたかつお節は、カビのついていないもの。この湿気の多い国で、遠方に運搬すれば商品の劣化は避けられない。それで、1700年前後にかけて和歌山県から、カビを付ける技術が誕生したのだそう。


「悪いカビを生やす前に、良いカビを生やしてしまえ!」


カビを味方につけた事で生まれた、枯れ節、本枯れ節。保存性が良く運搬に適していたため、重宝され、技術も広まるようになった。

 

このカビ。ここで、さらに詳しく掘り下げてみる。

かつお節カビとも呼ばれているけれど、アスペルギルス・レペンス(Aspergillus repens)と言う種類が代表的なよう。アスペルギルスというのは、皆さんお馴染みの麹菌の仲間を指す。ヤマ十さんでは詳しく聞かなかったので、ヤマ十さんでこのカビが用いられているかは分からないけれども。
 


ネット上で一般的に何て名前のカビか、色々調べていると、1番カビは青カビ(ペニシリウム属)、2番カビ以降がアスペルギルス属だとおっしゃる方もいる。アスペルギルス・グラカスもいるよとおっしゃる方もいるし、ユーロチウム属のカワキコウジカビだと、おっしゃる方もいるので、私、非常に混乱中。とりあえず、有益なカビです。(**解決したので、一番下に新しく学んだ事を追記します。) 

そのカビが、裸節に残された水分を利用して繁殖。その中で出す酵素が、裸節の脂肪分を分解し、まろやかな風味と濃い旨味を作るのだと、最近の研究から分かっている。発酵界の大先生、小泉武夫先生は以下のように、記して下さっているので、是非ご参考に。
 

カビを付けてやると、 鰹節の表面で生育するカビは、 その繁殖にかなりの水分を必要とするから、その水を鰹節の内部から表面に吸い上げ、その水を生きる糧として利用することになる。おかげで鰹節は、内部から理想的な形で水分が除かれ、 硬く乾燥することになる。この時、 カビの生成した脂肪分解酵素は、 鰹節の脂肪を分解して製品となってからの脂肪の酸化による品質上の劣化を防ぐ。 またタンパク質の分解酵素は鰹節のタンパク質を分解して、 うま味のもととなるアミノ酸をつくりだし、さらに、カビの作用によって一層うま味の強い型となったイノシン酸は、 アミノ酸と相乗して、信じられないほどの上品で強烈なうま味を私たちに与えてくれる。

 

「発酵食品の神秘」〜悪いことばかりではないカビの話〜 小泉武夫
Jpn. J. Med. Mycol. Vol. 42. 1-5. 2001    ISSN 0916-4804   P3より 】

 

 

ちなみに、カビ付けしていないと美味しくないかというと、そういう訳じゃあない。荒節にも、旨味成分のイノシン酸がちゃんと含まれている。かつお節の旨味成分である、イノシン酸は、煮熟の時に既に出来ているのだ。だから、かつお節はどれも美味しい。カビの性質を利用して、保存性上げ、旨味を凝縮したのが本枯れ節なのだ。

使い分け方は、出汁の透明感、まろやかな風味を必要とするなら、本枯れ節。燻しの香りとすっきり感を出すなら、荒節。価格も、本枯れ節の方が手間が掛かるので、そこにも違いが出てくる。でも、どの種類も含めて総称的に読んだ名前が「かつお節」。個人的に、これで少し、かつお節と仲良くなれた気がする。すごくスッキリ。

ヤマ十増田商店のご案内
 

今回、勉強させて頂いたヤマ十さんでは、平日ならば個人でも見学が可能。工場に併設して直売所もあるし、削り器のメンテナンスもして下さいます。カツオ節や、カツオ加工商品の種類の豊富さにも、驚きました。珍味の、カツオの心臓もこちらで販売しています。HPにも、かつお節が出来るまでの映像や、ショップもあるので、是非。インスタもありま〜す。

 
 
 

ヤマ十増田商店さん、かつお節を知る機会を、ご提供くださり有難うございました。実際のところ、まだ味の違いなどを語れる訳では無いので、引き続き学んで行きたいと思います。

 

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ヤマ十増田商店
〒425-0031 静岡県焼津市小川新町5丁目4番9号 
TEL : 054-628-3677 / FAX : 054-626-3654 (9:00-17:00)

 
 

(ヤマ十さんの素敵な包装紙。手火山造りの工程が、この一枚に!いつか手拭いになる日を待ってます。^^)

 

 

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カビについて追記  (2020.5.19)

ヤマ十さんにお尋ねしたところ、現在は焼津の鰹節組合で培養している、ユーロチウム属のカビを用いているとの事。しかし、以前はアスペルギルス属であったとか。昔ながらに棲みついたカビを利用し、本枯れ節を作っている工場では、アスペルギルス属の可能性もあるかもしれないとの事。こちらの記事をご紹介くださいました。とても参考になります。ありがとうございました!
https://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20140129post-454.html

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